齋藤弦/Strings Architecture
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以下、建築家のテキストです。
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タワーマンションに住むということ
都心ベイエリアに建つタワーマンションの一室の改修計画である。
以下の3点を設計の軸に、タワーマンションの特殊性と、そこに住まうことの意義を再考した。
都心部へのアクセス性の高さ、駅直結であること、低層部の商業施設等、都市生活を営むうえで、非常に利便性が高い物件である。
一方、利便性と裏腹に、都市と住空間が直結されることにより、住空間に都市が侵食してくるような居心地の悪さを感じていた。
そこで、公共性の度合いに応じて、①玄関・バルコニー・土間 ②リビング ③寝室・水周りという3層のレイヤーを外周部から順に配置し、それぞれの境界を、柔らかく光を透過するカーテン、木箱に見立てた壁面で構成することで活動のモードに応じて、都市と住空間の混和度を選択できる空間構成とした。
また、タワーマンションであるが故の太いメンバーの梁とダクト隠しに間接照明をインテグレートし、ゆるやかなR形状をあたえ、同じく曲面に配したカーテンと呼応させ、居室全体をつつむような、外界から守られたような形状を与えた。
タワーマンションに住む美点として眺望が真っ先に挙げられる。本物件は角部屋でありながら2方向の窓面を同時に一つの視点場から享受できない、ちぐはぐな既存プランになっていた。そこで、部屋構成を大きく見直し、寝室・水回りは機能性を維持してミニマライズすることで、2方向の景観を同時に臨める広いリビング・ダイニングとし、中央にオープンキッチンを配置する構成とした。結果、西には勝鬨橋と隅田川、東にはヒューマンスケールな街並みと運河を望む、タワーマンションでありながら、都市の中の自然に接続した住空間となった。
また、夜間は曲面形状のカーテンにフットライトを照射し、前面道路の光のきらめきを増幅し、タワーマンションらしい都会的な華やかさを演出した。
タワーマンションは、同質な内部空間・生活行為が五十数階に渡って積層する、冷静にみれば異常な状況に置かれているのではないかと考えた。そこで、屋外的で自由なアクティビティを許容するため、玄関-土間-バルコニーを一体化した土足空間を挿入することで、図式的にも行為的にも配列複製からの脱出を目指した。この空間は、間口の狭さから有効には使われないバルコニーを住空間の一部として認知させ、専有面積以上の広がりを与えることも意図している