2024/11/21 【雑誌】INTERIORS KOREA 2024年11月号

シゴト

WORKS
219

春鶯亭ひら

春鶯亭ひら
shunoutei.com

ALA INC.
alainc.jp

以下、建築家のテキストです。

横浜元町にある創業50年の料亭の改装。
建物は3階建ての一軒家で、南北2面で立体的に接道している。北側道路に面する1階は厨房として使われ、料亭のお客さんは反対側の南面道路から2階に入る。1階の厨房で調理したものをダムウェイターで上階の配膳スタッフが受け取り、客席に運んでいた。
料亭は3人の熟練の料理人が季節に合わせた高級素材で沢山の料理を提供するおもてなしが評判だったが、近年、料理人たちが高齢になりつつあり、かつてのような大人数の接客が難しくなってきた。コロナウィルスによる緊急事態宣言を機に、店主は老朽化した厨房・設備機器の更新とともに、店舗の縮減という新たな出発の決断をした。

減縮計画はまず3層をつなぐ2基のダムウェイターを撤去することから始まった。そして2階のパントリー、隣接する客室を排し、ここに柱や筋交いを避けながら厨房を移設した。厨房はこれまでの半分のスペースとなったが、機器や備品・食器を見直して、コンパクトで効率的に調理ができるレイアウトとなった。これにより店舗は2階で完結したため、1階をがらんどうにして、将来的な選択肢をつくった。なによりも上下移動がなくなり、できたての料理をすぐに提供することが叶い、店主の願いであったお客さんと料理人の距離が近まった。
縮減された店舗のインテリアにはシンプルなワンジェスチャーで空間をつくることが心地良く十分に思えた。そこで料亭に縁のある梅の木の枝を細かくスライスしてFRPに封入して、梅の繊維を店内に浮遊させることを考えた。FRPはガラス繊維にエポキシ樹脂に塗ることで生成されるが、その透明なガラス繊維に光が当たると様々な表情が出てくる素材だ。そこに梅の木の繊維が混ざることで、2つの繊維が光の濃淡によって纏まったり、離散したりする朧気に変化する独特のテクスチャーをつくった。
そのテクスチャーで廊下と中央客室の間に4連の大型引戸をつくり、開閉できる半個室とした。テクスチャーは隣接する小個室、トイレの建具まで引き延ばして、統合し、一種のインテリアファサードとしての強度を与えた。斜めの桟を加えることでサイズに制限のあるFRPを納めつつ、斜めの方向性によりファサードとして一体感を高める効果を狙った。
光や人の気配によって繊細に変化するファサードに呼応するように、周りも少し調整をした。エイジングされた既存の柱・梁は極力そのまま見せることとし、白色だった左官壁は土色に塗り、天井は黒光りするよう染色した。
新しい店舗では梅の繊維が浮遊した小さな空間の中で、料理人たちがこれまで以上にお客さんと親しく語らっている。

CREDIT

種別

リノベーション

設計

ALA  INC.

施工

ルーヴィス

施工管理

重久萌

計画面積

66m2

撮影

KOZO TAKAYAMA

所在地

神奈川県横浜市中区元町

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