TOE LIBRARY PARC(トウライブラリーパルク)は、東京浅草の合羽橋道具街に立地する築60年の木造建築をリノベーションした文化施設である。
160㎡程度の施設の中には、自家製の洋菓子を片手に読書や文化活動を楽しめる、図書喫茶室、ギャラリー、カルチャースペースを擁し、”表現の公園”をテーマに穏やかな交流を生み出すと共に、多彩な蔵書やヴィンテージ家具、雰囲気に調和する国内外のアーティストをセレクトした音楽に包まれた開放的な空間で、訪れる方に憩いの場所と時間を提供している。
本建築の特徴として、内装の解体時に露になった、重厚で美しい古材の梁や、歴史を重ねた柱を残し活かすことで、建物の記憶を受け継ぎ後世に繋いでいくことを意識した。全体的な色彩設計として、重なる伝統を想起する深い群青色と粗目の櫛引の漆喰塗りにより、年季のある梁や柱の飴茶色と調和する上質な構成を企図している。
空間を彩るインテリアについても、1点1点に物語を内包している。イギリスの教会で100年以上の時を刻んできたベンチ、パリの住宅で使われていた豪奢なデザインの赤い布張りの座面を纏うソファ、エメラルド色の大理石が気持ちを華やかにするサイドテーブル、京都のアーティストが世界中のヴィンテージアイテムを組合せてリメイクしたスタンドライト、大正時代から受け継がれるモダンなデザインのシェード・ランプなど、歴史を纏う建物に調和し、TOE LIBRARYのブランドを象徴するアイテムを、古家具を中心に世界中から厳選し構成した。
“TOE(Tales and Original Experiences)”のコンセプトは、住宅メディアの企画職を生業にしていた時代に、パリを旅行中の2016年8月10日に訪れた「Shakespeare and Company(シェイクスピア・アンド・カンパニー書店)」というセーヌ川の畔にある、カフェと宿泊施設を併設する書店 兼 私設図書館を訪れた際に着想した。
書店という衣装を着た、カルチャーを愛する世界各国からの旅行者と地域住民が交わり語り合い、その歴史が現代にも亘り堆積し続けている、文化を愛する全ての者にとっての憩いの隠れ家であるその空間に魅せられたのだ。
この旅と出会いを機に、構想の具現化に向けた思考と行動を重ね、予てより蒐集していた書籍や雑誌などの蔵書および、本構想の原点であるフランスを含むヨーロッパならびに大学時代を過ごした京都のヴィンテージ家具を用いてインテリアを構成した、”TOE LIBRARY(トウライブラリー)”というブランドネームを冠するホテルを、浅草の隅田川の畔で2020年8月に始める運びとなった。
“LIBRARY(図書館)”という名詞を要素に加えたことには理由がある。私達の取り組みや空間を媒介に積み重なっていく物語と原体験を、50年後、100年後、もしも建物や私達が風化したとしても、時代の流れとはまた別の基軸で遺し受け継いでいく存在であろうとする、意志と願い込めた。
開業から約4年にわたり、日常をひととき忘れて自身を問い見つめ直す機会や、記念日のお祝いを過ごす時間など、ひとりひとりの”大切”を想い育む時間を、国内・海外から訪れる沢山の方に届け続けてきた。私たちなりの矜持に基づき、生み出し磨き続けてきたプロダクトやサービスに共感し喜びの声を頂くことは、日々の大きな励みである。
直接的に声を頂くことは勿論のこと、客室のテーブルに優しく置かれた、私達に宛ててくれた手紙、童心に返って楽しんだことを想起する愛おしい落書き、記念日のお祝いで客室を装飾して楽しむ様子を垣間見させて頂く機会など、ひとりひとりが大切な人と想いを分かち合いながら自分らしく表現する、その尊い営みに心を打たれることが数知れず、その時間の積み重なりにより、TOE LIBRARY PARC(トウライブラリーパルク)の着想と構想に至った。
“PARC(パルク)”は公園を意味するフランス語である。
公園は、一人一人の社会的な役割はもちろん年齢や性別に関係なく、
そして、人間だけではなく動物や植物にも、
太陽や風や雨にさえも、平等に開かれた憩いの空間である。
その過ごし方も、誰に決められることなく、自由だ。
TOE LIBRARY PARC(トウライブラリーパルク)では、
今までと変わらず、非日常的な空間と時間の提供を通して、
ひとひとりの”大切”を想い育む機会や、
日常からひととき離れて心を整える憩いの場所を届けるとともに、
“表現の公園”として、表現の源となる気付きを得る時間や、
有形無形の表現を問わず、ひとりひとりが踏み出す
小さな一歩を後押しする機会を、創り届けていきたい。